東京新聞

 石牟礼道子さんの魂は天草の自然とともにあり、水俣の被害者と一体だった。そしてそのまなざしは、明治以来急激に進んだ近代化への強い懐疑と、そのためになくしたものへの思慕に満ちていた。  常世とこの世のあわいに住まう人だった。童女のように笑みを浮かべて、おとぎ話を語り継ぐように深く静かに怒りを表した。  彼女の魂は、不知火の海、そして出生地の天草、水俣の人や自然と混然一体だった。 **  彼女の魅力は詩情であり、水俣病患者や土地に宿る鳥獣虫魚、自然の声なき声の語りにあり、言葉の本質を考えさせられる。彼女が作者ではなく、何かが彼女に筆を執らせているのだ。また地方性、土着の思想が石牟礼文学には潜在した。  社会活動家としての彼女より、ひとりの人として生き、文学的磁場を崩さず最期まで貫いたその感性を讃えたい。